AI音楽に広がる「表示」と「規制」
最近、AI音楽に対する、規制や表示の動きが強まっています。
AIが主要な部分を作った「AI Generated」と、人間の制作をAIが補助した「AI Assisted」。
その違いをラベルで表示したり、音声にウォーターマークを埋め込んだりする仕組みです。
何も知らせずに配信するより、どのように作られた音楽なのか分かる方がいい。
透明性を高めるという意味では、大切な取り組みだと思います。
ラベルがあっても、リスナーは見るのか
でも、音楽の場合、リスナーはそのラベルを、実際にどこで見るのでしょう。
スマートフォンをポケットに入れて聴く。
車の中や、仕事をしながら、プレイリストを流し続ける。
音楽は、画面を見続けながら、楽しむコンテンツではありません。
ラベルが存在することと、リスナーがその情報を認識することは別です。
ウォーターマークには、音声の中に、人間には聞こえない情報を埋め込む方式もあり、
表示や識別の仕組みを作ることと、その情報がリスナーへ届くこと。
ここにも、少し違う問題があるわけです。
だからといって、ラベルに意味がないということではありません。
必要なのは、ラベルを付けるかどうかだけではなく、いつ、どこで、誰が確認できるのか。
そこまで考えることなのだと思います。
「AI音楽の問題」をひとまとめにしない
そして、AI音楽をめぐる問題には、もう一つ、大きな混乱があります。
AI生成であること。
大量に作り、大量に投稿すること。
ボットで再生数を水増しすること。
他人の作品や声を、無断で利用すること。
実際のリスナーから支持されること。
これらが、すべて一つの、「AI音楽の問題」として語られてしまうことです。
もちろん、生成AIを使えば、短い時間で大量の楽曲を作ることができます。
作品を作ることよりも、大量生成、大量投稿、収益化だけを目的にすれば、
配信サービスが、誰にも求められていない楽曲で埋まるかもしれません。
いわゆる、AIスロップや音楽スパムです。
実際、Deezerでは、2026年6月のピーク時に、新しく投稿された楽曲の半分以上が、
完全なAI生成と判定されました。
ところが、実際の再生に占める割合は、1パーセントから3パーセントでした。
大量に存在することと、大量に聴かれていることは、同じではありません。
さらに、AI生成曲で発生した再生のうち、最大85パーセントが不正と判定された時期もあります。
ただし、曲の85パーセントが、不正だったという意味ではありません。
AI生成と不正再生は同じではない
曲を大量に作ることと、ボットで大量に再生することは、別の行為です。
不正再生は、生成AIが登場する前からありました。
人間が作った曲でも、ボットやストリーミングファームを使えば不正です。
反対に、AIで作った曲でも、実際の人間が正規に聴いたのであれば、
その再生自体は不正ではありません。
AIは、不正を行うための曲を、安く大量に用意しやすくしたのかもしれません。
でも、不正を防ぐのであれば、規制するべきなのは、AIという制作方法ではなく、
再生数を人工的に操作する行為ではないでしょうか。
AI曲をチャートから外す正当性
ここで気になるのが、ヒットチャートです。
スウェーデンでは、Jacubの「Jag vet, du är inte min」が、Spotifyで多く聴かれた一方、
主にAIで生成された曲と判断され、IFPI Swedenが編纂する公式チャートの対象外になりました。
一方、2025年には、Breaking Rustという架空のアーティストによるAI生成曲、
「Walk My Walk」が、BillboardのCountry Digital Song Salesで1位になりました。
これは、Billboard Hot 100の総合1位ではありません。
カントリー楽曲の、デジタル販売部門での1位です。
それでも、AI生成曲が実際のチャートで、1位になった事例であることは確かです。
もちろん、チャートに入ったというだけで、すべての再生や購入が正当だったとは断定できません。
どのような集計基準なのか。
不正な操作が除かれているのか。
それを確認する必要があります。
でも、不正な水増しがなく、正式な集計基準に従ってチャートへ入ったのであれば、
少なくとも、そのチャートが測っている範囲では、人気のある楽曲です。
そこで、疑問が生まれます。
AI生成であるという理由だけで、チャートから除外する正当性は、どこにあるのでしょう。
ヒットチャートは何を測るのか
そもそも、ヒットチャートとは、何を測るものなのでしょうか。
一曲を作るために費やした時間。
人間が演奏した割合。
制作方法の正統性。
そうしたものを順位づけするのでしょうか。
それとも、その時点で、どの曲が実際に聴かれ、購入され、支持されているのか。
それを示すものなのでしょうか。
もし後者であるなら、正規に人気を得たAI生成曲を除外するには、
スパム対策や不正再生対策とは、別の理由が必要になります。
もちろん、公式チャートを、人間の芸術性をたたえる場所と考えることもできます。
そうであれば、単なる人気の集計ではなく、人間の創作を表彰する制度だと、
はっきり示す必要があるのかもしれません。
音楽業界の一部では、完全なAI生成曲をチャート対象外とする、
考え方も示されています。
不正や権利侵害を防ぐのであれば、それぞれの問題行為を規制すればいい。
スロップには、大量投稿や収益目的の濫用へ対策を行えばいい。
それでもなお、正規に支持されたAI生成曲まで、チャートから排除しようとするのであれば、
いったい、何を守ろうとしているのでしょう。
もしかすると、そこには、既存の市場構造や、大手レーベルの立場、
これまで築かれてきた権益が、新しい制作手段によって揺らぐことへの、
恐れや防衛意識もあるのかもしれません。
もちろん、音楽業界が実際に、AI曲のヒットを恐れていると確認されたわけではありません。
これは、あくまで私の考察です。
でも、もしAIで作られた曲が、ボットも使わず、不正な水増しも行わず、
そのチャートの正式な集計基準の中で、実際のリスナーから支持され、
何週間も1位になったら、どうするのでしょう。
AIだからという理由だけで、その曲をランキングから除外する正当性は、
どこにあるのでしょうか。
本当に問題なのは、誰にも聴かれない大量のAIスロップなのでしょうか。
それとも、AIで作られた音楽が、人間が作った音楽と同じ市場で競争し、
本当に支持されることなのでしょうか。
問題行為と制作方式を分けて考える
私は、AI音楽を、無条件に認めればいいとは思いません。
スパム、大量投稿、不正再生、権利侵害には、明確な問題があり、対策も必要です。
しかし、問題となる行為を規制することと、AIという制作方法そのものを、
市場から排除することは別です。
AI音楽の問題は、もう、AIで音楽を作っていいかという段階ではありません。
何が不正で、何が権利侵害なのか。
何が単なる大量投稿で、何が本当にリスナーから支持された音楽なのか。
それぞれを分けて考える段階に、入ったのだと思います。
youtu.be