現在、AI音楽の多くは、Spotifyなどのストリーミングサービスや、YouTubeなどの動画サイトで発表されています。
オンラインイベントやライブイベントもありますが、そこで行われていることは、基本的には同じです。
すでに生成された曲を流し、参加者に聴いてもらう。
つまり、一般的な音楽とほとんど同じ方法で発表されています。
もちろん、楽曲を聴いてもらうだけなら、それでも問題はありません。
しかし、AI音楽をAI音楽として知ってもらう方法としては、少し弱いように感じます。
なぜなら、現在のAI音楽は、音を聴いただけではAIで作られた曲だと、ほとんど分からないからです。
音から違いが消えてしまった
シンセサイザーやボーカロイドには、音を聴いただけで分かる特徴がありました。
シンセには、電子的で人工的な音色がありました。
ボーカロイドには、人間とは異なる発音や歌い方がありました。
最初は不自然だと思われていた部分が、やがて、その音にしかない魅力へ変わっていったのです。
ところが、現在のAI音楽は違います。
楽器も歌声も、人間が作った音楽とほとんど変わりません。
初めて聴く人にとっては、
「知らないアーティストの、知らない新曲」
それ以上のものには、なかなか見えません。
違いがあるとすれば、
「この曲はAIで作られています」
という説明が付いていることくらいです。
しかし、注釈を読まなければ分からない特徴は、音楽そのものの魅力とは少し違います。
AIであることが作品の個性ではなく、制作方法の説明になってしまっているのです。
完成度が上がったからこそ、AIらしさが見えない
これは、AI音楽の完成度が低いために起きている問題ではありません。
むしろ逆です。
人間の音楽と聞き分けられないほど完成度が高くなったことで、AI音楽らしさが見えなくなってしまいました。
だとすれば、AI音楽の魅力を伝える場所は、完成した音の中ではないのかもしれません。
AI音楽ならではの特徴は、曲が完成した後ではなく、曲が生まれるまでの過程にあります。
同じ歌詞。
同じジャンル。
同じプロンプト。
同じ条件を与えても、生成するたびに違う曲が生まれます。
メロディも違います。
歌い方も違います。
間奏や曲の終わり方も変わります。
これを単なるガチャと呼ぶ人もいます。
しかし私は、インプロビゼーション、つまり即興演奏に近いものだと考えています。
決められた条件の中から、その瞬間に一つの音楽が生まれる。
この部分こそ、従来の音楽にはないAI音楽の特徴なのではないでしょうか。
AI音楽が生まれるところを見せる
そう考えると、AI音楽のイベントで完成した曲を流すだけでは、少しもったいないと思います。
例えば、観客から曲の条件を集めます。
場所。
時代。
ジャンル。
登場人物。
感情。
使用する楽器。
そうした言葉を集め、その場でプロンプトを作ります。
そして、どのような曲が生成されるのかを、参加者全員で聴いてみます。
この形式なら、観客は完成した曲を聴くだけのリスナーではありません。
自分たちが出した言葉から、どんな音楽が生まれるのかを見届ける参加者になります。
同じ条件で何度か生成するのも面白いでしょう。
一回目は明るい曲。
二回目は暗い曲。
三回目は、予想もしなかった展開になる。
同じプロンプトなのに、なぜこれほど違うのか。
どの曲を残すのか。
どの曲が最も面白かったのか。
そうしたことを話し合えば、完成した曲を流すだけでは生まれない、新しい音楽体験になります。
言葉で音楽を動かす
AIとのやり取りそのものを見せる方法もあります。
「もう少し寂しく」
「ギターを前に出して」
「最後は明るく終わらせないで」
このような言葉を加えながら、曲を変化させていきます。
従来のライブでは、演奏者が楽器を操作して音楽を変えていきます。
AI音楽では、言葉を使って音楽の方向を変えていきます。
もちろん、思った通りに変化するとは限りません。
AIが指示を誤解することもあるでしょう。
しかし、その誤解から、思いがけない展開が生まれるかもしれません。
それを修正するのか。
そのまま採用するのか。
そこには、人間の判断や個性が現れます。
AIが音楽を作るからといって、人間の役割がなくなるわけではありません。
どの言葉を選び、どの結果を残し、どの偶然を面白いと思うのか。
その選択に、制作者の個性が表れるのです。
AI音楽は作品ではなく、出来事になる
現在のAI音楽イベントは、完成した作品を聴く鑑賞会に近いものが多いと思います。
それ自体が悪いわけではありません。
ただ、その方法だけでは、AI音楽と一般的な音楽の違いは、ほとんど伝わりません。
AI音楽をAI音楽として見せるなら、
曲を生成する。
違いを聴き比べる。
言葉を加えて変化させる。
どの曲を残すか選ぶ。
そうした過程まで含めて、発表する必要があるのではないでしょうか。
完成した曲を作品として見せるだけではなく、
音楽が生まれる瞬間を、出来事として見せる。
AI音楽を聴かせるイベントから、
AI音楽が生まれるイベントへ。
AIであることを説明文で伝えるのではなく、体験として伝える。
それが、AI音楽をAI音楽として認識してもらい、話題にしていくための、新しい発表方法になるのではないかと思います